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「少数民族の藍 -中国西南部とタイ北部」
2011年3月17日 - 6月18日

 明治の頃、来日した小泉八雲が、いみじくも日本は美しい藍に満ちた国と賞賛したそうですが中国やタイの少数民族の人達も同様に藍木綿を種々に活かした服装をしています。照葉樹林地帯の文化の繋がりを想う一方、気の遠くなる様な精緻な刺繍や、美しいプリーツのスカート、ピカピカに光る布加工、どれもため息の出る様な手仕事と、ファッションが、僻地の山奥に延々と今日迄続いて来た事は、信じられない事でした。
 彼等は、数千年も前に黄河流域に古代王国を築いた人々の子孫で、漢民族とは全く異なる人々だそうです。文字を持たず、周囲から蛮族と呼ばれて蔑視され、度々の攻撃で、中国西南の奥地に追いやられ、各部族は、自然の要塞に守られて独自の多様な言語や服装を自給自足の暮らしの中でしぶとく深め受け継いできました。
 1999年、念願かなって貴州省の山村を訪れましたが、文化大革命を経た中国で、いまだに昔ながらの暮らしが息づいていたのは、信じられない驚きと、中国染織5000年の歴史を改めて見せつけられた思いがしました。貧しい木造の民家で、豪華な銀飾りを頭に乗せ正装した姿を見せてくれた若い娘さん、スードンの街の苗族の銀細工師のガランとした部屋で、表紙の衣装を見せてもらい、この家の五代前のお祖母さんの手作りと聞き仰天しました。パリコレに出してもおかしくない、ファッショナブルでしかも完成度の高い刺繍やプリーツが庶民の作とは信じられませんでした。山道を駆け上がる子供達が、ピカピカの藍染めの上下を着て、遊んでいる姿も驚きでした。
 彼らに出会う20年も前、私はタイ北西部の古都チェンマイで彼らと似た服装の少数部族の人々に出会っていました。街で見かけたメオ族、アカ族、ヤオ族と呼ばれる人々が藍木綿地に特徴のある刺繍、アップリケ、蝋結染めを施した民族衣装を着ていました。その頃は、第二次世界大戦後で、どのアジアの国々も貧しく、本物の手仕事に出会う事は滅多にありませんでしたので、アカ族の大胆なアップリケの上着、ヤオ族の総刺繍のパンツ、麻地蝋結染めに刺繍のメオ族のスカート、どれも新鮮で見る度にドキドキしたものです。山奥の集落を訪ねて、山間部にも行きましたが、彼らが中国西北部から押し出されてこの地に移住した人々だった事は、当時は知る由もありませんでした。タイの他ミャンマー、ラオス、ベトナムにも同種の民族が中国西南部から1800年代に移り住んで、それぞれの地で中国時代から受け継いだ刺繍や蝋結染めを新しい環境の中で独自に活かした服作りをしてきました。熱帯のタイに移住した人々は明るい藍色に大胆な文様と色彩が楽しく、彼等の古着を利用して作った服はとても新鮮で80年代のエスニック ファッションの源流となりました。
 今回は私が、最初に出会ったタイの少数民族の衣装と民話や信仰の縫い込まれた、密度の高い中国少数民族の手仕事の両方を見て頂きます。