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「パッチワークとアップリケ -輝く色の重なり」
2011年10月13日 - 2012年1月21日

 北西インドやパキスタン側の砂漠地帯では、色鮮やかなパッチワークキルトが無彩色の砂漠の中で、ひと際目を惹きます。古くなったベールやスカート、また、余った小布を寄せ集めたモダンな幾何文のキルトは、簡易ベットに敷かれたり、客人用に部屋の隅に積み重ねられます。アップリケに描かれた、吉祥文の生命の樹、花や鳥の壁掛けは、部屋を彩る唯一の飾りで、積み重ねたキルトの前に飾られます。婚礼時には、戸口や馬、ラクダの背も、アップリケの布で飾られます。
 古い布の再利用は、インドでは、ヒンドゥー教の輪廻の思想に根ざした、当たり前の事になっていますが、実際、色褪せた布が新しい布に混じる事によって全体が、より自然な調和を作ります。また、ちいさな四角の布が寄り集まって、大胆な構図を作る面白さは格別です。そして、どこでも出来る、パッチワークキルトは、遊牧の世界だけではなく、アメリカの開拓時代にも、小さな想い出の小布を寄せ集め、質素な部屋を飾り、暖をとるのに使われました。物の有り余る現代でも、キルト作りは多くの女性に愛され続けています。
 佛教の世界では、釈迦を始め僧侶達は貧しい信者から捧げられたボロ布を大切に接ぎ合わせ、刺子をして補強をしたと云われています。イスラームの聖者も同様の刺子の歴史があり、パッチワークや刺子は人間が布を纏い始めた頃から出発している事になります。トルクメン族の子供服は、長寿のお年寄りから譲り受けた小布を接ぎ合わせて作りますが、地味な縞が返って子供の愛らしさを引き立てます。
 今回初めてお目にかけるのは、この表面のフェルトのアップリケです。30年も前にアフガニスタンのバザールで購入したものですが、フェルトの原色を使った切り伏せ文は、波頭や羊の角、のこぎり文、どの文様も遊牧民の強い意志と不屈の精神を表しています。テントの中に、この強烈な敷物に囲まれて暮らす、ウズベック ラカイの人々を想像し、息詰まる思いでした。自由を求めて遥かウズベックの地から19世紀末にアフガニスタンの北部の山岳地に移住してきた彼等は好戦的な騎馬民族。女性はアルカティックな装飾的デザインの刺繍が得意で、フェルト作りにも優れていました。フェルトは、鉄器時代の墓からも出土し、孤立した遊牧民の間で受け継がれてきたと云われています。様々なメッセージを伝えてきた“布と色”の組み合わせのパッチワークは、どうやら古代に始まり、まだまだ無限に広がる可能性があります。