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「インド北部の毛織り物 -ヒマラヤ山麓、山の民の巻衣装」
2015年12月3日 - 2016年3月19日

 ほぼ一年中暑いインドですが、ヒマラヤに一番近いカシュミール州やヒマーチャルプラデーシュ州、ウトゥランチャール州など、冬は雪に閉ざされ旅行者は入れません。一番高地のカシュミール州は、イスラーム教徒が大半で古来シャトゥーシュと呼ばれる野生の山羊の喉毛からとれる最上級の薄い、やわらかな素材と、ペルシアの工人がもたらした複雑で美しい織文様は、ヨーロッパの貴婦人たちまで魅了したのは有名な話です。今回の展示でもお見せします。
 ヒマーチャルプラデーシュ州へは何の情報もないままに出かけました。秋の山道を大きな籠を背負って小走りにおりて来る村の女性たちとすれ違いました。グレーや焦茶の自然色にほんの少し、赤や緑を縁どったウールの巻衣装がいかにもやさしい感じで、沙漠で出会った強烈な色彩からは想像も出来ない、
照葉樹林帯特有の自然にとけ込んだ服装に、温かいものがじーんとこみ上げてきました。石と木を積み重ねた、どっしりとした民家の二階の壁に織機が取り付けられている光景は、マナリ周辺でよく見られます。
 この巻衣装は自家産の羊毛を紡いで織った、パトゥと呼ばれる巻衣装で(巾1.2mで長さは4m)、身体に巻き付けて布端を両肩に後ろから持ち上げて、ピンでとめ、腰ひもを帯のように巻いて着用します。
 ヒマーチャルプラデーシュ州の州都であるシムラーから東に2時間くらい走ったランプールの周辺は、昔からチベットとの古い交易ルートで賑わった場所で、マナリの素朴なパトゥも昔はこちらからの移住者によって伝播されたようです。国道がチベットの国境まで延びて、質の良い毛が入ったため、こちらで織った製品と交換したそうです。この辺り(キナウル地方)の衣装はドゥールーと云われ、長めに織られた布を背中で三重に折り返し、暖かくします。毎年11月にはラヴィ フェアと云う、大きな市が河のほとりでひらかれ、山の民の自家産ウールの織物市で周辺から大勢の人が集まると聞いていました。2012年の11月、まさかその様な市はもうないだろうと思いましたが、緑のトピ(帽子)やこの表紙にある白地に赤やオレンジの織文様の布がところ狭しと並んでいて、人々が一張羅を着込んでそぞろ歩くさまは、かつてのフェアを彷彿させ、すっかり興奮してしまいました。表紙の肩かけは、そのフェアで入手したものです。抽象文様ですがチベットのカーペットや佛間の文様がよみとれます。今回はインド北部の衣装から、沙漠地帯の遊牧民が陽除けのために纏うブランケットなど。インドならではの羊毛の手仕事を見て頂きます。