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「煌めく刺繍布 フルカリ — 針で綴る華やかな世界」
2016年12月1日 - 2017年3月18日

 パンジャーブ地方は、その名の通り5つの大河を持つ、肥沃な大地とあふれる太陽の光に満ちた穀倉地帯です。1947年、インドが英領インドから独立する時、イスラーム教徒の多い西側はパキスタンに、ヒンドゥー教徒の多い東側はインドに属することになりました。同時にパンジャーブ地方もインドとパキスタンの東西に分割されました。

 今回、展示する煌めく刺繍布「フルカリ」は、独立以前のパンジャーブ地方の農村で女性たちに愛用されたベールです。私が初めてインドを訪れた1970年代には既に実用としては使われておらず、書物で見ると、Phulkariとあり、当然「プルカリ」と呼んでいましたが、実際、インドの商人たちは「フルカリ」と発音されていました。「フル」は花、「カリ」は仕事、花の刺繍を意味することと教わりました。

 17世紀初めにヨーロッパから訪れた旅行者は当時の美しさを書き残していますが、現在のパンジャーブでは、フルカリについては何も知らない人が多いと云います。しかし、かつてはこのパンジャーブ地方の女性たちにとって、フルカリは欠かせない婚礼の持参品でした。少女時代から母や祖母に刺繍を習い始め、婚礼時までに布一面に煌めく刺繍を自らの手で作り上げ、人生の節目の大切な役割を果たす布でした。

 フルカリは自家製の木綿を摘み取って紡いだ糸を細巾に手織りし、3枚を接ぎ合わせて大きな布に仕立てます。地色は茜の濃淡の赤茶系と藍の深い濃紺が多く、赤はヒンドゥー教徒の間では神に敬意を払う色とされ、藍もクリシュナ神の肌の色であり、夜明けを意味します。刺繍糸は撚られていない絹の真綿糸が用いられ、主にダーニングステッチで埋め尽くしていきます。特に西パンジャーブ(パキスタン)のバーグと呼ばれる庭園を表した幾何学文様のフルカリは、布の裏から布目の織り糸を数え、拾いながら刺していきます。表面には長い糸目が全面を埋め尽くし、まるで絹のブロケードのようになり、糸の向きを変えた部分は光の反射で違った色に見え、光を効果的に捉えています。一方、東パンジャーブ(インド)はサインチフルカリと呼ばれる、晴れの日に相応しい、愉しい暮らしの図が具象文様で描かれます。動物や人物、憧れの装身具、娯楽のゲーム盤など、豊かな暮らしへの願いが込められています。(表紙のフルカリ)

 一つとして同じものがない、様々な絵文様のフルカリを初めて一堂に並べます。