展覧会
  • 現在開催中の展覧会
  • 過去の展覧会
  • 今後の展覧会
当館について
  • ごあいさつ
  • 館長・岩立広子より
  • 出版物
  • 友の会募集
交通案内

「白の刺子 カンタ - ベンガルでの出会い」
2017年4月6日 - 7月15日

 再び、初めてのカンタ。
 表紙のカンタの出会いについては、私の著書「インド 大地の布」に載っているので割愛するがこのカンタが私の手元に来てから45年の歳月が流れた。その頃のカルカッタ(現コルカタ)は戦後の混乱をひきずり、その上、隣国のバングラデシュ独立のため多くの難民の流入、かつて大英帝国の首都だったことなど、想像もつかない土埃の舞う都市だった。手仕事の布を探していた私は、街なかに新しく出来たベンガル ホーム インダストリーと云う政府のお店に立ち寄ったが、マニプル州に住むナガ族の象や蝶の文様が織り込まれた大胆なブランケット、オリッサ州の木綿の浮織のベッドカバー、アッサム州の白地に赤の織り文様のショールなど、どれも素朴で良かったが、ベンガルの手仕事は粗く織ったジャムダニ織のサリーぐらいで昔の様なカンタの復活は夢の話だった。当時、知り合ったルビー パル チョウドリーさんは、とても熱心にその復活に取り組んでいた。残念ながら、新しい布を数枚重ねたカンタはかつての使い古された柔らかなモスリンのカンタには及ぶべくもなかった。
 その後、何度もカルカッタには足を運んだが、古いカンタを見るには郊外の田園の中にあるグルー サダイ ミュージアム、カルカッタ大学のコレクション、シュボ タゴール氏のコレクションなど、どれも素晴らしかったが私の初めて出会った自由でのびのびとした感性のカンタに出会えることはなかった。数年後、ニューデリーのマイダンにある骨董街の行きつけの店で、偶然に素晴らしい完成度の高いカンタが持ち込まれ、ぐずぐずしていると人に取られてしまうので、値段の末尾につくゼロがいくつなのか、ルピーなのかドルなのかさっぱり解らないまま、良い物を見ると使命感にかられて十数点の逸品を集めることが出来た。その後もコツコツと収集を続け、後半はバングラデシュにも足をのばした。どのカンタもそれぞれに美しく、彼等の綴った心の世界を表現し、2枚と同じものはなかった。
 しかし、最初に舞い降りて来た初めてのカンタは、何度見ても新たな感動を沸き立たせる不思議なパワーを持っている。近づいてみると、表面のモスリンの布地はうっすらと皮が擦りむけた痛々しい状態になってしまった。けれども、細い針目がチクチクと全面を優しく覆い、見る度に喜びをもらう。中央の見事な蓮文、四隅の豪華なペーズリー、咲き乱れる生命の樹、小さな蝶や可愛いアヒル、カラフルな孔雀、颯爽とした馬、象、虎、猿、立派な魚、旗を翻す山車、異人たちとベンガルの人々。一つずつ確かめてください。生きているのが楽しくなります。

岩立 広子